第23回 役員が負う2つの義務 その1

2019.04.17
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2019年アカデミー賞を受賞した「グリーンブック」を観てきました。
ドクターと呼ばれる天才黒人ピアニストが、度胸と腕っぷしに富んだイタリア人ニックを用心棒に雇って、ツアーをする物語です。

しかし、ただのツアーではありません。
人種差別の激しいアメリカ南部を8週間かけて回るものです。覚悟の上とはいえ危険極まりない場面に何度も遭遇しながら、二人は人種や境遇を超えた男の友情を築きます。

出会った頃は「でこぼこコンビ」だった二人が、旅を通して他人を思いやり共助しながら、小さな気づきを重ねて、自分に足りない人格のパーツを埋めていきます。

ニックの奥さんは帰宅した夫の変貌に大変驚きますが、それが誰によるものなのかよく判っています。
彼女は孤高のドクターを家に向かい入れ、「手紙をありがとう。あなたのお陰です」と感謝しながら彼を抱きしめます。

主役の二人ではなく、彼女の真に喜びに満ちた表情をラストカットに持ってくるあたりが、この映画の非凡さを感じさせるところです。

また、ドクターが劇中で言った台詞はたぶんいつまでも私に記憶されるでしょう。
「人の本質は肌の色(外見)ではなく、言葉に宿る。」

私はこれまでいかに言葉を軽く存外に扱ってきただろう。自分にドクターのような信念のカケラでもあったならと思い、後悔や無念に似た感情が湧いてきました。
人生の一本と呼べるような映画でした。

神奈川でも栃木でも同様の相談が連続してあり、かつ、栃木のフォーラムでも同種の質問があったので、偶然のような気がしなくて、マンションの理事会で起きていることが実は以前から気になっていて、それらが重なってコラムにしてみようと思いました。

相談者は区分所有に関する知識が豊富で真摯に業務にあたっている役員さんばかりで、真剣さは視線の厳しさからも感じられて、こちらも根拠に基づかない説明や曖昧な意見で逃げるようなことは許されない雰囲気がありました。

神奈川のマンションの監事さんからの相談内容は、
「定例の理事会では時間的に間に合わない緊急の事案がマンションに発生した場合に、
① 理事長が臨時理事会を開催することができる。
② それは非会議方式、すなわち理事さんたちが議案を書面または電磁的方法によって決議することができる。
というもので、これらのことを事前に規約等に定めず、全組合員のフィルターにかけようともせず、理事会という密室でルール化されて良いものなのか監査役として疑念を生じる」というものでした。

また、監事さん自身がたまたま体調を崩して欠席した理事会において、これらが理事全員一致して賛成し決議されたとのことで、責任を強く感じているような口振りでした。

ちなみに相談対象のマンションは、標準管理規約単棟型と同内容の規約の定めが存在することを前提にしています。

「臨時理事会の開催」については、私は細則で定めるべきだとアドバイス致しました。

臨時の意味は具体的に「何日前までに招集通知を役員に発しなければならないか」が問題になるわけで、細則に定めがなければ今までどおり総会と同様に原則2週間前ということになります。(規約52条4項が準用する43条1項)

また、理事全員の同意があるならば5日を下回らない範囲において期間を短縮することができます。(規約52条4項が準用する43条9項)

いや緊急の場合なので5日も待っていられない、「前日に急に必要となった場合にも理事会を開催したい」というニーズが理事会にあるのであれば、
細則に、「臨時理事会の招集通知は開催日の〇日までに発すれば足りる」という定めを置けば済むことなので、これをお薦めしました。

一方、臨時理事会であっても書面決議については細則で対応することはできません。

規約53条1項に、「理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができない」という理事会の定足数に関する規定があり、これは役員の実出席によるリアル理事会(書面や電磁的方法によるものでない理事会)を当然に想定しているものです。

ですから、規約を改正せず、規約と矛盾する形で細則に定めても書面決議は認められないことになります。規約改定案としては、標準管理規約の53条2項を次のとおり改正することが考えられます。

(理事会の会議及び議事)
53条 理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。
2 前項にかかわらず、理事全員の承諾がある場合には、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。

「貴マンションでは、これより臨時総会を招集し又は通常総会を待って、上記の規約改定及び細則制定の議案を上程し、それぞれの決議要件を満たし、組合員の承認が得られれば、臨時理事会の開催と臨時理事会における書面決議を行うことが可能になる」と監事さんにご説明致しました。

しかし、監事さんが翌月の理事会において持ち帰った規約等の改正案等と今後組合として必要となる一連の手続きを紹介したところ、専門家にわざわざ相談してくれたことの慰労や感謝は示されましたが、内容に関しては理事さんたち及び管理会社から相当の反論というか抵抗があったというのです。

<理事及び管理会社の主張>

これはマンションの教科書にも載っていることですが、区分所有法は組合の運営について管理者が執行機関となる「管理者方式」を採用しているのに対して、実際の管理組合の大部分は規約によって理事会が執行機関となる「理事会方式」を採っています。

よって、区分所有法に理事会についての定めがありませんので、専門家の意見や(財)マンション管理センター等の専門機関の指導を参考にすることになります。

例えば、業界で名著と呼ばれるコンメンタールという区分所有の専門書があり、その中に理事会の定義に関する記述があります。

「理事会方式」では、理事長が具体的業務を執行するにあたっての意思決定機関であり、
理事は理事会の定めるところに従い、組合の業務を担当する。
(コンメンタール マンション標準管理規約)

理事会の定めるところとは、規約や細則に限定しているわけではなく、「申し合わせ」のようなものであっても役員さんたちの合意によりルール化されたものであれば、それに従い理事会を運営することに問題はないと理解しています。
現にコンメンタールで「理事会の定めるところ」と曖昧な表現になっているところからも察することができます。

確かに規約や細則のような重みはありませんが、我々の「申し合わせ」は多数決ではなく、理事全員で合意しているので、規約や細則に劣後するものではないと思います。

他の近隣のマンションにおいても、「申し合わせ」と同等レベルのもので理事会は運営されているのが実情であると聞き及んでいます。

例えば、月に1度第〇土曜日の16時に開催するとか、時間内に討議が尽きない場合は次回の継続審議にするとか、採決は挙手によるとか、○○専門委員会の活動は理事会で委員長自らが報告するとか等々、これらも皆「申し合わせ」事項です。

この度監事さんが指摘している臨時理事会の開催も書面決議もこれらの延長線に位置するもので、特別のルールだとは思っていません。組合の抱える問題に機動的に対応するための一手段、理事会の業務を円滑に行うためのものと考えていただきたい。

また、「申し合わせ」は次期の理事会の運営まで縛るものではありません。次期理事会メンバーが妥当で必要と思えばこれらを引き継げばよく、適切でないと思う事項は「申し合わせ」から除外すればよいだけで、取捨選択は次期理事会メンバーの任意です。
理事会の定めるところは、柔軟で自由度の高い「申し合わせ」の方が似合っているのではないか、これが我々の認識です。
(次回に続く)

マンション管理士・行政書士白寄和彦事務所
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